ハネビロトンボとヒメハネビロトンボの種間雑種 Hybrid between Tramea virginia and Tramea transmarina
ハネビロトンボとヒメハネビロトンボは近縁種であり,両種間での種間雑種個体が記録されている.
記録地
石垣島3♂1♀,西表島1♂で記録されている
生息環境
平地や丘陵地にある抽水植物が繁茂する池や沼とその周辺で見られる
記録
3月・5月・6月・10月に記録がある
形態
頭部 雄は顔面がハネビロトンボのように赤褐色の個体とヒメハネビロトンボのような黒褐色の個体がいる.前額の背面全体が紫色の金属光沢で覆われている.この金属光沢の範囲はハネビロトンボとヒメハネビロトンボの中間程度の個体,ハネビロトンボのように細い個体,ヒメハネビロトンボのように発達する個体の複数型が確認されている.若い雄は顔面が蜜柑色で,前額は紫藍色の金属光沢で覆われる.雌の顔面は明るい蜜柑色で前額背面の後縁に光沢のある青藍色条がある.顔面は明るい蜜柑色.複眼は雌雄ともに上半分が赤褐色で下半分が暗い灰色で雌の方が明るい色調である.雌雄ともに上唇の黒斑は発達する.
胸部 雌雄ともに暗褐色でヒメハネビロトンボに似るが幾分明るい.
翅 翅の大部分は無色透明であるが,雌雄ともに後翅根元部分に大きな褐色斑紋が発達する.♂の前翅基部は橙色に色付き,わずかに黒褐色斑がある個体もいる.後翅褐色斑の周りは橙色の縁取りがありハネビロトンボに似る.褐色斑基部に無色透明斑紋がなく後翅前縁脈基部はヒメハネビロのように発達する.また褐色斑紋が三角室に届かず,褐色斑の側縁に無色透明斑紋がある個体も記録されている.翅脈は赤色.♀の前翅は基部が橙色に色付く.後翅は褐色斑紋が発達し,周りはハネビロトンボのように縁取るように橙色に色付くか無色.褐色斑には無色透明斑紋が無いか側縁中央部にわずかに無色透明部分がある.後翅前縁脈基部は無斑紋.翅脈は白色.
腹部 若い個体は橙色で成熟すると雄では赤色になり,雌は成熟度合による変化はない.第8節~10節の背面と側面はほとんど黒いが上半分のみが黒くなる個体もいる.雌は腹部第7節背面の中心線に沿って黒条がありハネビロトンボの雌に似るが,ヒメハネビロトンボのように黒条が無い個体も記録されている.雄の生殖後鈎はハネビロトンボより短くヒメハネビロトンボよりは長い.尾部上付属器は細長い葉片状である.雌の産卵弁は第9節と同程度の長さで,ヒメハネビロトンボに似る.
ハネビロトンボ・ヒメハネビロトンボ・種間雑種の各部形態比較
頭部 雄の金属光沢の発達具合はハネビロトンボでは前額上部程度,ヒメハネビロトンボでは前額全体,種間雑種では前額中間ほどである.雌でも同じ傾向で種間雑種は両種の中間を示す.上唇の黒斑も同様でハネビロトンボでは小さく,ヒメハネビロトンボと種間雑種ではよく発達する.雑種個体においてはハネビロ,ヒメハネビロ,中間型の3型が見られる.
側面 全体的な形態はハネビロトンボに,斑紋はヒメハネビロトンボに似る.ハネビロトンボ似とヒメハネビロトンボ似の2型がある.
雄副性器 各部形質は両種の中間的な形態をしている.
雄腹部末端形状
雌腹部末端形状
生態
基本的にはハネビロトンボ・ヒメハネビロトンボと変わらない.成熟した雄は池の一定範囲を往復し縄張り形成する.飛び方はハネビロトンボに若干寄っており,縄張りの範囲は同所にいるヒメハネビロトンボより大きくとるように見られた.縄張り内にヒメハネビロやハネビロが入ると追尾して追い出し,両種との強弱関係は見られない.池以外では草地でヒメハネビロトンボに混じって摂食活動する姿が見られる.雌は産卵時にヒメハネビロトンボと連結した状態で採集している.産卵の形態は他のハネビロトンボ属と変わらず,連結態で水域を飛び回り放卵時に連結態を解く.採集すると腹部末端から卵が出てきており標本作成時にも卵巣がしっかり発達していることが確認できている.
備考
本ページの5♂7♀の個体はDNA解析の専門家に同定依頼をした結果,雑種と判断された個体を掲載している.ハネビロトンボ及びヒメハネビロトンボは翅斑紋の変異が豊富で似ている個体も出現する.そのため同定の際は頭部・生殖器・翅斑紋等総合的な観点から判断する必要がある.しかし,外観だけでは同定不可能な個体も存在するため,確実な手段はDNA解析を依頼する必要がある.以下にハネビロトンボとヒメハネビロトンボの種間雑種に似た個体を掲載しておく.